イメージできないことは実現できない!! って知っていますか?
常に最高のパフォーマンスが要求される、スポーツ選手やアーティストたち。彼らにとって、技術や実力が必要なのはいうまでもありません。スキルを磨くために日々圧倒的な練習を重ねています。
しかし、それだけではだめなのです。練習ではできたのに、本番で実力を発揮できないということは、みなさんも経験したことがあるのではないでしょうか?
例えば、スピーチやプレゼンをすることになったとします。何の準備もしないで、いきなり本番を迎えるとみじめな結果になります。もちろん、多くの人は事前に原稿を書き、それを読む練習をするでしょう。
原稿はよく書けた。練習もして気の利いたギャグもいえる。これで準備はカンペキ!! っと思って、迎えた当日。
準備はしたはずなのに、いざマイクの前に立ったら声が出ない!!! 大げさに咳ばらいをして、こわばった腕で原稿を持ち、脚が震えていることに気が付きます。そして、案の定全然だめ。
こういうことは、日常でも起きています。「わかっているのに、できない」「できるのにできない」
では、なぜそうなってしまうのでしょうか。一つは「うまくできないかもしれない」という不安によって、緊張しすぎてしまい、実力が発揮できないのでしょう。もう一つは、練習はしたものの「実践場面でどう行動すればいいか」を意識していなかったため、練習と本番との状況が違いすぎて、そのことで頭が真っ白になってしまい、練習の成果が発揮できなかったのかもしれないですね。
いずれの場合も、この人の頭の中には「大勢の前でうまくスピーチをしている自分のイメージ」がなかったのです。私たちはイメージのできないことはうまくできないようです。
今回の記事では、性別移行(女性化)にイメージトレーニングを活用する方法を紹介します。
性別移行(女性化)にもイメージトレーニングが必要
このことを女性化や性別移行(トランジション)にあてはめると、どういうことがいえるでしょうか。
女性として生きている自分を想像してみてください。あなたは、ご自分の女性として生活を想像することができますか?
女性としての自分を想像できなかったあの頃
性別移行を始めたばかりのころは難しいかもしれません。私も、自分の性の違和感に気がつき、女性として生きることを決めてからしばらくは、頭の中でイメージする自分が男性(あるいは心は女性だけど、身体は男性の人そのもの)のままでした。
その頃よくあったことは、いくら女性らしいしぐさや動作、話し方や声の出し方を練習して、ある程度できたつもりになっていても、いざ人前に出ると元通りの(男性っぽい)行動をしていることでした。
なぜそうなってしまったかというと、女性として生きている自分を明確にイメージできていなかったからだと思います。
私は中学生のころにはすでに自身の性への違和感に気が付いていましたが、それを忘れようとして男性らしく生きてきた時期がありました。その結果、これまでの男性らしい行動様式がしみついてしまっていました。
そして、いくら(通常の)意識で「女性らしい行動をしよう」と考えていても、無意識(潜在意識)のこれまでにしみついてしまった男性のころのイメージのほうが勝ってしまって、結局元通りの行動をしてしまっていたのです。
そんなこと言われても、信じるのは難しいですよね? なんかオカルトめいたことを言っていると思う方もいらっしゃると思いますが、これは迷信でも宗教でもなく、よくある精神作用なのです。
意思の力は想像力にはかなわない?!
「こうしよう」という意思よりも、イメージこそが大切であると提唱したのは、エーミール・クーエです。彼は、19世紀末から20世紀にかけて活躍したフランスのセラピストで、もともとは薬剤師をしていました。
ある時、彼はとある患者さんから「もっと効く薬はないか」と聞かれました。そこで彼は、機転を利かせていつもの薬をよく効く薬ですといって渡します。すると、その患者さんが後日やってきて「いつも以上に効果があった」と喜んで報告したとのことです。
この経験から、イメージの力に気が付き、研究をはじめ、やがて薬剤師をやめてしまい、イメージの力を使った治療を始め、当時のフランスでよく治ると有名な治療家として活躍しました。
クーエは、細い板を地上に置いて渡るのは簡単にできるが、それを高いビル(塔)の高さに渡したら、誰も渡れないことを例として挙げています。
この狭い道を、一メートルだって進みうるものがいるだろうか。下からさあどうぞと声をかけても、足がいうことをきくまい。二歩と進まぬうちに、身体中が震えだし、「意思の力をどれだけ働かせても」地上へ墜落するにきまっている。
(C.H. ブルックス・エーミール・クーエ著、河野徹訳『自己暗示』、法政大学出版局、1966年、P.113。太字は筆者)
そして、なぜそういうことが起きるかについて、クーエは次のように説明しています。
板が地上にあるときは渡ることが簡単だと想像しているから渡れる。それに対して、高いところにあるときは、「そんなことができるはずがないと『想像』しているから」。
高いところにある板を渡る人は、足を踏み外してしまい、下へ落ちていくことを想像してしまっているでしょう。普通に考えたら起こりうることだからです。その結果、いくらうまく渡ろうと思っても、落ちてしまうイメージのほうが勝ってしまい、身体がそれに従って落ちてしまうのではないでしょうか。
性別移行をするときも、いくら意思で女性らしく行動しよう、ふるまおうと思っていても、自分が男性だったころの自己イメージを変えられていなければ、イメージのほうが勝ってしまい、男性のような行動がでてしまいます。
それに対して、自分が女性として、普通に女性らしく行動している様子がうまくイメージできるようになれば、自然と女性らしくできるのではないでしょうか。
女性化のためのイメージトレーニング
では、具体的にはどうやって女性としての自分のイメージが
頭の中のイメージは、新しくしたいと思う行動を繰り返し行うことで出来上がり、回数を重ねることでより鮮明になります。そうすると、次第に特に意識しなくても自然とその行動が取れるようになるのです。
しかし、とはいっても、この記事の冒頭で書いたように、イメージできないことを行うのは難しいのです。そこで、まずは女性らしく行動している自分のイメージを作る(=想像する)練習をするといいと思います。私が実際に行っている、イメージトレーニングを紹介しますね。
イメージトレーニング1 ~女性としての自分のイメージをつくる~
- あなたはどんな女性になりたいですか? かわいい女性? 美しい女性? 社会で活躍している女性?
- 女性としてのあなたは、どんな服を着て、誰と、どこで何をしていますか?
もし、女性としての自分を想像することが難しかったら、映画やテレビのスクリーンに女性が移っているのを想像してみてください。あなたは映画館やテレビの前に座っていて、目の前にスクリーンがあります。そこには一人の女性が移っていて、だれかと何かをしています。そして、その女性は自分です。
- スクリーンの中の女性は、どういう服を着て、誰と、どこで何をしていますか?
- その女性はどういう表情をしているでしょうか?
- その女性はどう考えて、どう行動していますか?
スクリーンを通して、女性である自分の姿がイメージできるようになったら、その女性と自分を同一化させてください。その女性の目を通してみて、聞いて、感じてください。
イメージトレーニング2 ~女性らしいしぐさを身に着ける~
例えば、あなたが女声や女性らしい話し方を身に着けたい場合は、次のような方法が役にたつかもしれません。
- 自分が女性として、だれかと話している場面を想像してください。
- どういう声で話していますか? 高さは? 響きは? 音色は? 大きさは??
- どんな感じがしますか?
- どういう喉の使い方をしていて、どういう自分自身の声が聞こえているでしょうか?
もし、女性らしく話している自分を想像するのが難しかったら、次の方法を試してみてください。
- あなたはテレビの前か、映画館のシートに座っています。座っている椅子や床、シートの感覚を感じてください。
- 映画やテレビのスクリーンに一人の女性が映っています。
- そして、誰か(一人かもしれませんし、複数の人たちかもしれません)と話しています。
- その人は、女性ですから、当然女性らしく話しています。
- その女性はあなたです。
今度は、そのスクリーンの中の女性と自分を同一化してみてください。やろうと思えは、できます。私たちはテレビを見ているときに、主人公や登場人物に感情移入することがよくあります。その時と同じようにすれば、いいのです。
もし、それでも女性らしい声で話している自分が想像できなければ、高い声で話している自分を思い出してください。
- 声変わり前の記憶を思い出してください。人は誰でも、幼いころに何かを言っていた場面を覚えているものです。
- その時は、どのような感じで声を出していましたか??
まとめ
私も、性別移行を始めたばかりのころは、女性としての自分を全く想像できませんでした。そのころ私はNLP(神経言語プログラミング)や、自己暗示・催眠といったことに興味があったので、それらのテクニックを使って女性に近づくことができるのではないかと考えました。
何人かのMTFさんやニューハーフさんとあってお話して感じたのは、パス度が高く、女性らしい方は皆、「自分が女性である」と心から信じている(=イメージしている)のではないかということです。ある方に聞いたら、「将来を想像するとき、頭の中に浮かぶ自分は女性」だそうです。その方は、女性として行動している自分のイメージが明確にできているのでしょう。
そこで私も、女性としての自分が想像できるように練習(イメージ)しました。そして、女性らしい行動様式で行動している自分を想像しながら、女性らしいしぐさなどの練習をするようにしました。
その結果、今では特にがんばらなくても、女性として自然にふるまっている自分を想像できるようになってきました。そして、それに伴って、女性としてパスできることも増えてきました。
まだまだ結論はでていませんが、見た目はまだまだなのにパス度が高い人がいる一方で見た目が女性なのに、なかなかパスできない人がいるのは、「女性としての自分をイメージできているかどうか」の違いなのではないかと思います。
みなさんも、女性としての自分をイメージしてみたくださいね♪
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