MTFの当事者なら、「反転法」「大腸法」という言葉を聞いたことがあると思います。これらは、性別適合手術の造膣術の方法のことです。未手術のMTFの間では、よくどっちにしようかという話題がでますよね。ところで、造膣ってした方がいいのでしょうか? ここでは、造膣をするべきかどうかをデメリットも含めて、考えます。
性別適合手術とは
性同一性障害の当事者(以下、MTFと書きます)が、身体をより女性に近づけるために受ける、外科的な手術のことです。
日本精神神経学会が定める「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」(通称、ガイドライン)によると、ホルモン療法をしても、まだ身体と性自認(心の性)のズレによる苦痛が残っている場合に、希望すれば受けられることになっています。(ホルモン療法を先にするか、手術を先にするかを含めて、タイミングは当事者が決められることになっています)
また、ホルモン療法によって身体が女性化して、現在の社会生活に満足している場合でも、戸籍を変更したい場合は、性別適合手術を受ける必要があります。将来的には、一部の欧米の国々のように、性別適合手術なしでも性別の表記が変えられるようになる可能性はありますが、2016年8月現在、戸籍上の性別の変更には性別適合手術が必要です。
性別適合手術では何をするの?
性別適合手術は、陰茎の切除と睾丸(精巣)の摘出、外性器の見た目を女性器に近づけるための外陰部形成、それから疑似的な膣を作る造膣などがあります。
このうち、戸籍上の性別の変更に必要なのは、陰茎・睾丸の摘出、外陰部形成までです。造膣をしなくても戸籍上の性別を変更することはできます。
このほかにも、広い意味では、豊胸手術や喉仏切除、顔の女性化のための手術も、性別適合手術といえるかもしれませんが、一般的に性別適合手術といった場合、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(特例法)で規定されている、戸籍上の性別の変更に必要な手術のことをいう場合が多いです。
造膣術をするか・しないか
さて、MTFの間では、性別適合手術(性転換手術)というと、国内でするか、タイなどの海外でするか、それから反転法か大腸法かということが話題になります。造膣をするかしないかの議論よりも先に、造膣の方法がでてきます。先ほども書きましたように、造膣術は必須ではありません。しかし、当事者の間では、女性であれば膣がほしいという憧れや、より生まれながらの女性に近づきたいという希望から、造膣を選択する人が多いです。
筆者も、性別適合手術を受けるときは造膣もしたいと考えています。理由は、やはり多くの当事者と同じ理由です。もちろん、造膣術にはデメリットもあります。例えば、
- 造膣術は大がかりな手術で、身体への負担が大きいこと
- 直腸膣ろうや尿管膣ろうなどの合併症がまれに起こるかもしれないこと
- せっかく膣を作っても、生来的に浅くなってしまったり、閉じてしまったりすることがあること
- 膣が浅くなってしまわないように、ダイレーターという棒状の器具をつかって拡張するケアを手術後しばらくの間する必要があること(人によって異なりますが、痛みを訴える人もいます)
- つくった膣を性交に使うには、ケアが必要なこと
など、書いていて、悲しくなってくることばかりです。
手術をする前のカウンセリングでは、これら説明を受けると思いますが、それでも多くのMTFが造膣を希望する理由は、できるだけ生まれながらの女性に近づきたいからです。これは、当事者でないとわからないかもしれませんが、「心が女性でありながら、男性の身体で生まれてきてしまった」と感じている、当事者には1つずつでも生まれながらの女性に近づきたいという想いがあります。
もちろん、ただ単に社会的に性別を変えられればいいと考える人や、リスクはできるだけ回避したいと考える人もいます。それはそれで賢い選択だと思います。手術した後も、超えなくてはならない壁は多いですから。
しかし、あくまでも私の考えですが、もしお金に余裕があって、健康的にも手術ができる状態なら、ぜひ反転法で造膣することをおすすめします。なぜなら、陰茎を切除してしまうと、反転法ができなくなるからです(もし、すでに造膣なしで性別適合手術をしてしまっている場合でも、大腸法などの方法で造膣することができます)。
とはいっても、造膣には先ほどあげたようなデメリットもあるので、最終的には自己判断です。性別適合手術を検討している当事者の参考に、私の考えを紹介しました。
次回の記事では、なぜ私が反転法で造膣することをおすすめするのか、書きますね。
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