性同一性障害は、こころの性と体の性の不一致に悩み、そのことからくる身体の嫌悪感や生活の困難で苦しむ「病気」です。その原因については、いろいろ言われていますが、確かな原因は解明されていません。ここでは、性別の認識や性差につながるといわれているさまざまな要因を紹介し、性同一性障害の原因について考えていきます。
性同一性障害(MTF)の原因
- 分界条床核が正常の男性に比べて小さくなってしまっているのが原因の一つとする説
⇒下記参照 - 前視床下部間質核(INAH)の「第3神経細胞群」 (間質核の第一核)が正常の男性と比べて小さいのが影響するという説
⇒下記参照 - 男性ホルモンの作用が不十分であるとする説
私は、男性ホルモンや女性ホルモンが感情や行動を変容させるのではないか、と考えています。例えば、男性ホルモンは攻撃性を増加させるといわれていますし、女性ホルモンによって思考や行動が変化したのも当事者としての経験から感じています(未検証・個人の感想です)。このことから、男性ホルモンが少なかったり、量が正常でも働きが弱かったり(受容体の不全など)する場合、女性的な脳(思考・行動)になっていく可能性があるかもしれないと思います。
身体的な性差はどのようにできるのか
1.受精の段階で染色体の組み合わせから性別が決まる
中学校の理科の授業や高校の生物の授業で、性別が決まる仕組みを勉強したと思います。私はもう忘れちゃいましたが、XX=女、XY=男という部分は覚えている方が多いのではないでしょうか。
私たちは細胞の核の染色体にDNAとよばれる遺伝情報を持っています。そのDNAのタンパク質の組み合わせで私たちの身体はデザインされているのです。
人の染色体は、22対(44本)の常染色体と、1対(2本)の性染色体で、合計23対(46本)あります。このうち性染色体が、私たちの体の性別に影響します。先ほどもちょっと書きましたように、性染色体2本の組み合わせが、染色体XXだと女性、XYだと男性になります。
私たちは、母親と父親から半分ずつ染色体を受け取ります。男性の精子は、Xの性染色体をもつ精子とYの性染色体をもつ精子の2種類ができます。一方女性の卵子は、常にX染色体をもちます。女性の性染色体の組み合わせはXXであり、Y遺伝子をもたないためです。
何らかの原因で、性染色体が2対にならない場合があり(X0 XXYなど)、性分化疾患につながります。
受精のタイミングで、Xを持つ精子が受精すると女性になりますし、Yをもつ精子が受精すると男性が生まれます。
2.Y染色体があれば、精巣がつくられる
受精卵は分割を繰り返しながら、細胞が増殖・分化し胎児になります。その細胞の分化に遺伝子が影響するのです。
男児(男の胎児)の場合、Y染色体があるので、精巣を作らせる遺伝子(SRY)がはたらいて、精巣になります。女児の場合は、Y染色体がないので、そのまま変化しません。
3.精巣から男性ホルモンが分泌され、脳や外性器の分化が進む
男の胎児の場合、受精後12~22週目(妊娠16週がピーク)になると、精巣から大量のアンドロゲンが分泌されます。このアンドロゲンは、内・外性器だけでなく脳の男性化も促すという説が有力です。
一方、女の胎児には精巣はありませんので、そのまま女性型の内・外性器に分化していきます。
ここまでが、第一次性徴です。その後、思春期を迎えると、男子では精巣からアンドロゲンがさかんに分泌され、二次性徴が発現して、男女の体の性差が顕著になります。一方女子では、男性型に分化せず、女性型に分化した卵巣よりエストロゲンが分泌され、女性らしい体つきになっていきます。
性差ができる時期
- 出生時にすでにある性差
- 内・外性器
- 胎児の段階で、男児のほうが脳梁が大きいという研究結果もある
- 発育過程で生じるの性差
- 脳の重さは初めは男女同じ→3~4歳でさがでてくる
- 二次性徴など?
- (社会・文化的につくられる性差)
性役割(gender role)や性規範(gender norms)を身に着けることも、女性性や男性性といった「らしさ」に影響します。
従来は、性差は身体的な面だけだといわれていました。それに対抗して、むしろ後天的に文化から仕込rまれたものであるという説も唱えられたこともあります。現在では、性差は身体的な構造やホルモンだけでなく、社会・文化的に学習したものも性差に大きく影響し、その双方が相互にダイナミックに関係しながら性差がうまれているという説が最も有力です。
脳にみられる性差
先ほどの性差(第一次性徴)が生じる過程を紹介しました。胎児のとき、性ホルモンによって脳の性差ができあがると考えられているのでしたね。では、男性と女性ではどのように脳の性差があるのでしょうか、一般的にいわれている脳の性差を紹介します。
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脳梁
男女の脳では、脳の左半球と右半球をつないでいる部分の太さに違いがあります。女性のほうが、この脳梁が太く両方の脳半球の間での情報交換がさかんとなのではないかといわれています。
女性のほうが細かいことに気が付いたり、話すのがうまかったりするのは男性が片方の脳半球を活性化させているのに対して、女性は両方の半球を使っているから、なんていわれていますよね(巷の「男女の違い」系の本)。また、負の側面では女性はすぐに感情的になってコントロールを失うなどという偏見?の根拠にされることもあります。
前視床下部間質核(INAH)の「第3神経細胞群」 (間質核の第一核??)
- 男性のほうが大きく細胞数も多い
性的指向 sexual orientationとの関係 - ここが大きいと、メスを追いかける性行動をとる
- (アカゲザルのメス(胎児)に男性ホルモンを打つと、大きくなる?)
- 同性愛の男性は、ここが小さく 女性のものにほぼ等しいというデータもある
INAHは、男性のほうが大きく、女性は小さいといわれています。ここが大きいと、メスを追いかける性行動をとることが動物の研究でわかっています。とある実験では、アカゲザルのメスの胎児に男性ホルモンを打つと、この部分が大きくなったという結果があり、胎児期の性ホルモンによる分化の可能性が指摘されています。
また、同性愛の男性では、そうでない男性に比べてこの部分が小さくなっていて、女性のものにほぼ等しいというデータもあるそうです。
性同一性障害(MTF)の場合も、男性ホルモンの不足か何かが原因となって、この部分が小さくなってしまっているのかもしれないですね(未検証)。
BNST(分界条床核)
- 通常は、男性のほうが大きく、女性は小さい
- ジェンダー・アイデンティティと関係
- トランスジェンダー(セクシャル)では逆転
- MTF TSは女性のように小さく
- FTM TSは男性のように大きい
- 同性愛男性と一般の男性との優位差はない→性的指向と関係なし
という研究報告も。
性同一性障害の原因につながりそうな、ジェンダー・アイデンティティに影響があると考えられているのは、分界条床核です。通常は、男性の方が大きく、女性のほうが小さくなっていますが、トランスジェンダー(トランスセクシャル)では、逆転していることがあるといわれています(MTF TSは女性のように小さく、FTM TSは男性のように大きい)。
この分界条床核と性の認識の関係は確実に証明されたわけではないようですが、もしかするとここが男性ホルモンの不足やその他のなんらかの原因で、この部分が小さく分化した場合、「自分は女性である」と思うのかもしれません。
まとめ
ここまで、性同一性障害の原因について、私の経験や考えも交えながら、現在よくいわれている説を紹介してきました。これらの説は、どれが決定的な原因であるかや、本当に100%正しいのかはまだ検証されていません。まだまだ未解明な原因がある可能性もあります。
また、主に遺伝子の違いからくる「身体的な性差」だけでなく、「社会文化的に学習された性差」も男女の性差に大きく影響し無視できません。それらは、相互にダイナミックに作用しながら、行動様式などの性差を作っているため、脳の構造などの身体的な原因を探るだけでは、性同一性障害の原因の究明にはつながらないかもしれないでしょう(文化的につくられる可能性も否定できません)。
さらに、原因の究明は性同一性障害・当事者の生活の質(QOL)の向上に何の役にも立ちません。原因がわかったところで、それを治療するのは難しいでしょうし、その人の性自認を変更するということは精神を操作するということであり、倫理的にも問題があるからです。
このようなことから、この記事で紹介した原因は、「こういうことで性差ができるんだ!!」という参考にとどめてくださいね。